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この人の場合、「泣く子も黙る」という言葉がそれほど大げさに聞こえなく感じます。
新撰組「鬼の副長」土方歳三。
京の街を朱に染め、江戸から会津と戦い抜き、最後は函館で散った「最後の幕臣」です。
鬼と呼ばれた土方歳三はどんな名言を残しているのでしょうか。残された名言と、その解説を行っていきます。
Contents
土方歳三の名言①:侍になる!
「我、壮年武人と成りて、天下に名を上げん」
土方歳三
土方歳三は武州日野の豪農土方家に10人兄弟の末っ子として生まれました。子供の頃からひどいいたずら好きで、高幡不動の山門によじ登っては、道行く人に野鳥の卵をぶつけたりしていたそうです。
そんな土方歳三を地元では「バラガキ(不良少年)」と呼んで忌み嫌ってましたが、どうしようもないバラガキの土方歳三にも夢はありました。
「武士になる」
土方歳三にとってこの夢だけは譲れるものではなく、自宅の庭に矢竹を植えて、こう言っていたそうです。(矢竹とは弓矢の“矢”の材料となる竹のことです)
幼い頃は確かに「バラガキ」だったかも知れませんが、結果として土方歳三は「武士になる」という夢を叶えるどころか、遥か後世まで名を残した「名誉の武士」にまで上り詰めるのでした。
土方歳三の名言②:モテ男、本領発揮?
「報国の心ころわするゝ婦人哉」
土方歳三
土方歳三は函館で撮った写真が現存していますが、現代でも通じる優男です。
京都で新撰組副長となると、羽振りはいいわ優男だわで、とにかく女性にモテたそうです。
上洛して間もない頃、郷里の新撰組支援者小島鹿之助の元に大きな荷物が届きました。土方歳三からの京土産かと思って開けてみると、中には土方歳三に恋焦がれる芸者・舞妓からの恋文がびっしりと詰められており、この句が手紙に添えられていたそうです。
今風に言うと「モテちゃってモテちゃって困るわー」という自虐風自慢と言ったところでしょうか。
こんな子供っぽいところも、土方歳三が女性にモテる理由なのかも知れませんね。
土方歳三の名言③:東の君
「たとひ身は蝦夷の島根に朽ちるとも魂は東の君やまもらん」
土方歳三
土方歳三の辞世の句と伝わります。「たとひ身は」の部分が「よしや身は」とも言われています。
函館に追い詰められ、いよいよ明日をも知れぬ身となった土方歳三がその心境を表した句として知られますが、「東の君」が誰を指しているのか、昔から議論となっていました。
幕臣であったので最後の将軍徳川慶喜を指しているという説、最後まで新撰組の庇護者であり続けた会津藩主松平容保を指しているという説、そうではなく故郷日野の家族や一党を指しているという説など、様々です。
普通に考えれば徳川幕府のことを指していると思えますが、「君」は天皇陛下を指している言葉とも取れます。
土方歳三は「東の君をまもらん」という言葉に、暗に「新撰組は賊軍では無い。尊王の志は当然あったのだ」という無念の意味を込めたのかも知れません。
土方歳三の名言④:これが本当の辞世の句?
「鉾とりて月見るごとにおもふ哉あすはかばねの上に照かと」
土方歳三
函館まで共に転戦した新選組伍長・島田魁。彼がまとめたとされる和歌集の巻頭にあるのがこの句です。実はこの句こそが、土方歳三の辞世の句であるという説を京都・霊山歴史館の木村幸比古・学芸課長が打ち出されています。
意訳すると、「鉾を取って月を見る度に思う。この月、明日は俺の屍の上に照るのか、と」といった感じでしょうか。
何となくではありますが、こちらの方が土方歳三の辞世の句のような感じがしてなりません。
土方歳三は相当なロマンチストだったと共に、自分の死を華麗に演出する見事なプロデューサーだった気がしてならないのです。
死の直前に仲間と最後の酒宴を開き、「明日の夜には、あの月は俺の屍を照らしている」と言い残して、翌日見事に散っていく。
なんとも土方歳三らしい劇的さを感じてしまいます。
土方歳三の名言⑤:鬼の真骨頂
「よおし。ならばその俄侍に、いってえどれだけのことができるか見せてやろうじゃあねえか。俺ァとことん働いて、天下の俄になってやる」
土方歳三(浅田次郎『壬生義士伝』より)
作家浅田次郎氏作の「壬生義士伝」に、こういう一節があります。
会津戦争の真っ只中、会津に残る事を主張する斎藤一と、仙台への転戦を主張する土方歳三は夜を徹して議論を続けます。
幕府御家人として、幕府が投げ出した全ての責任を一身に引き受けた会津松平家を見捨てることは出来ないと主張する斎藤一は土方歳三に対し「同じ御家人でも拙者は貴公のごとき俄ではない。生まれついての御家人じゃ」と言い放ちます。
それを受けての土方歳三の答えがこの言葉です。
これを聞いた斎藤一は「いい男だと思うた」と後に述懐します。
フィクションではありますが、土方歳三のイメージを具現化したいい言葉だと思います。聞かん気で、意地っ張りで、頑固で、それでいて誇り高き仕事人。
新撰組「鬼の副長」のイメージにぴったりな言葉ではないでしょうか。
おわりに:土方歳三の名言、いかがでしたか?
新撰組「鬼の副長」と呼ばれながら、女性にモテモテの優男だった土方歳三。
その容姿から想像出来ないような剛毅な精神を合わせもっていたのでしょう。残されたエピソードや名言からもそれが伺い知れます。
「鬼の副長」という言葉から、つい冷徹な人間を想像してしまいがちですが、土方歳三は決して冷徹なだけの人間ではなかったのではないかと思います。
そういうアンバランスさも土方歳三の魅力の一つなのでしょうね。